今年の「NHK学生ロボコン」の競技は、ロボットによるバドミントン。「見る分にはすごく面白そうですね! やるのは大変そうですけど」「ロボットにこれ、できますかね?」などの反応に「ハードルが高すぎた?」との不安もよぎります。迎えた大会当日、担当の日景プロデューサーは、「どんな難題を課しても学生たちは必ずやってくれる」と実感したと言います……。
ロボコンの競技ルールを作ることについて、ある先生はこう言いました。
「斬新で教育効果が高く、テレビ番組としても面白く、会場が盛り上がり、致命的な穴は皆無で学生が喜ぶルールを作るべし。ただし製作テスト無し、いきなり本番。あ、失敗したら容赦なく総スカン食うことになります。そんなお題を毎年課せられるのがロボコン事務局です」と。
それ、もはやロボットを作るのと同じぐらい難しくないですかね……? 当時先生の言葉を聞いた私は思いました。
NHKエンタープライズ(NEP)が運営しているロボコンは「高専ロボコン」「NHK学生ロボコン」。そしてアジア・太平洋の学校が参加する世界大会「ABUロボコン」ではアドバイザーとして、毎年変わるホスト国と大会の準備を進めます。今回ご紹介する「NHK学生ロボコン」は「ABUロボコン」の日本代表を決める大会です。NEPは「ABUロボコン」のホスト国の教授陣やテレビ局の意向を聞きながらルールを固め、その後、日本の先生方と話し合いながら「NHK学生ロボコン」用にルールを翻訳し、競技フィールドなどは日本仕様に調整して発表します。
さて、今年のNHK学生ロボコンのテーマは『ロボミントン』です。簡単に言うと、ロボットを2台作り、バドミントンのダブルスをしましょう! というもの。ABUロボコンのホスト国インドネシアの教授陣、そして日本の先生方とも何度もやりとりを重ね、ルールブックや図面を去年の9月に公開しました。
ルールを発表したあとの反応は、かなり気になります。好まれようと、嫌われようと、学生さんも私たち運営側も365日、このルールと向き合うことになるからです。
「どうですかね? 今年のルール?」OBや現役の学生さんたちに機会がある度に尋ねました。
「見る分にはすごく面白そうですね! やるのは大変そうですけど」
「ロボットにこれ、できますかね?」
「仮にサーブだけのゲームになってもバドミントンって言えるんですか?」
……やる前から微妙に総スカン食っていないだろうか?
やや不安になりました。今年の競技は例年とずいぶん趣向が違います。これまでの大会は3分間の中で、障害物をどこまでクリアできるかを競うものでした。毎年ロボットが物を投げたり、ジャングルジムを登るなど、障害物は変わりますが、的や登る物が動くことはありません。決められた課題をきっちりこなせばとりあえずクリアはできることになります。ところが「ロボミントン」は、飛んでくるシャトルのスピードも、どんな角度でコートのどこに飛んでくるのかも、全ては相手次第。しかもシャトルが打たれてから自分のコートに届くまでのわずか1、2秒の間にこれらをロボットに判断させ、打ち返すところまで行わなければなりません。不確定要素への対応、これこそが今年のABUロボコンのホスト国・インドネシアが求めたことですが、どうも要求が高すぎたようでした。
「人間だって初心者がまともにラリーをできるようになるまでには3か月ぐらい練習するんだからね!」
とある方から指摘され、おっしゃるとおり……と思いました。しかし、難しすぎようと発表してしまったものは、やり通さざるを得ません。学生さんからは日々大量に質問やリクエスト、設計図やビデオがNEPの事務局に送られます。「画像認識用のカメラを置きたい」「操縦者にも機器を取り付けたい」「コートの仕様をペンキの塗料からネジの位置まで全て正確に知りたい」「ルールブック第N項目において、事務局の考えを述べよ……」
こういった質問に対しても、常に冒頭の「致命的な穴は皆無で学生さんが競技に挑め、かつテレビ番組の収録にも、お客様の観戦にも支障がない」ような解を探し、インドネシアの競技関係者、日本の先生方、テレビ収録チーム、フィールドやセットを作る美術チームと話し合いながら決めていきます。ときにメールボックスを開くのが億劫になりますが、そんなときは、学生さんが頑張っているならば……、当日「ロボミントン」が観られるならば……と言い聞かせます。
9月にルールを発表してから半年。3月にもなるとインド、ベトナム、インドネシアなど他国の様子もネットにあがってきます。どこの国も今年は苦戦しており、サーブで終わったり、あるいはサーブすら失敗していたり、「えええ、やっぱり今回は……」と不安になる情報がちらほら入ってきます。が、ロボコンの運営チーム一同は「毎年必ず学生はやってくれるから」という“困ったときの学生頼み”で進みます……。
そして迎えた6月7日、NHK学生ロボコンの本番。
私の心配などどこ吹く風、ロボットはサーブを打ち、レシーブをし、さらに相手コートの奥まで打ち込むショットを見せたかと思えば、ネット際に落とすテクニックまで駆使しているではありませんか!
1日600回ロボットとともにシャトルノックをし、操縦者のテクニックと根性で乗り切ろうとしたチームあり、全自動化に挑み本当に実現させたチームあり、千手観音のように10本以上取り付けたラケットで打ち返そうとしたチームあり、多様なアイデアで学生とロボットは「ロボミントン」をしていました。中にはゲストとして登場した元オリンピック選手、あの「オグシオ」の小椋久美子さんとのスペシャルマッチで30回以上打ち合うロボットも!
どんな難題を課しても「毎年学生さんはやってくれる」というのは「伝説」ではなく「真実」であるということ。そしてその裏で、学生さんの活躍を願う教授、スタッフ、OB、お客さんの力によってロボコンは成り立っているということを、身をもって実感した大会でした。
そんな今年の大会の放送は7月20日(月・祝日)午前9時30分〜10時24分(予定)。
さらに、8月にはNHK学生ロボコンを勝ち抜いた早稲田大学がインドネシアに渡って、ABUロボコンでアジア・太平洋のチームに挑みます(こちらは9月に放送予定です)。
学生さんたちの無限のアイデアと可能性、ぜひご覧ください。
日景千秋(中央)
グローバル事業本部 イベント・映像展開 プロデューサー
2014年の高専ロボコン、2015年のNHK学生ロボコン、ABUロボコンを担当
(写真は頼れる“ブレーン”の先生たちとともに)