10月25日にスタートする「新・映像の世紀」 制作を支える“権利クリアランス”とは?

新・映像の世紀

今月放送が始まる「新・映像の世紀」。番組の9割が海外からの調達映像で構成されるこのシリーズの制作には、映像の“権利クリアランス”が欠かせません。2年にわたりその業務に取り組んできた池上敦子は、権利元との「信頼関係」が最も重要だと語ります。


1995年にNHKスペシャル「映像の世紀」が放送されてから20年。
その間も放送は繰り返され、多くの人々がこの番組に触れてきました。さらなる再放送の要望が寄せられるなか、新たにデジタルリマスター版としてよみがえり、この9月に放送されて好評を得ました。そして、放送90周年企画として、新シリーズ「新・映像の世紀」が、いよいよ10月25日(日)に始まります。

2つの「映像の世紀」シリーズはともに、世界各地から集められた膨大な量の映像で構成されています。通常の番組作りでは「アーカイブ映像」(資料映像)は補完的に使われることが多いのですが、この番組の“主役”はその「アーカイブ映像」。番組の実に9割を占めます。
歴史が刻まれた貴重な映像の説得力は圧巻ですが、一方で「アーカイブ映像」ならではの、苦労もあります。それは、「権利の塊」である映像を放送で使えるようにする、“権利クリアランス”です。

では、1995年版「映像の世紀」においてどれだけの映像が使われていたのでしょう。なんと世紀を超えて100年の歴史を刻んだ、20,000を超える映像クリップが集められたのです。調達元は、映像ライブラリーから個人所蔵に至るまで、世界各地100か所以上に及びました。

それから20年。この間に各国では情報公開が進み、インターネットの普及によって検索方法等が格段に進化しました。その結果、企業や個人が所有するプライベート映像など、たくさんの貴重で珍しい映像が“発掘”されています。
「新・映像の世紀」のために集められている映像クリップは、すでに12,000以上に及んでいます。第6集まで制作が進むにつれてどこまで増えるのか……、本当に膨大な数になるだろうと、感じています。

柔和な表情を見せるヒトラー カメラを構える愛人エヴァ(新・映像の世紀 第3集 より)

柔和な表情を見せるヒトラー、カメラを構える愛人エヴァ(新・映像の世紀 第3集 より)

こちらは、今回のシリーズで発掘した画像の中でも飛び切りの掘り出し物のひとつです。ヒトラーの愛人、エヴァ・ブラウンの遺品の中から、1945年10月にアメリカの諜報機関(のちのCIAと言われています)によって回収されたプライベートフィルムで、アメリカの国立公文書館に収められていたものを見つけ出しました。

さて、こうした映像の権利クリアランスを担当するのが、私たちNEPライツ事業です。
番組のディレクターが、これはぜひ番組で使いたい! という映像の数々。私たちはその1カット1カットについて、確実に放送する権利を手に入れるために全力を尽くすのです。どこの国だろうと、どこに住んでいようと、その映像の権利を持っている団体や個人を洗い出し、時には途切れそうになる連絡ルートをたどりながらコンタクトを取ってOKを取る、という交渉を行ないます。放送で使うマスター素材も入手しなければなりません。前述のように扱う映像の量はとても多く、常に時間との戦いです。

権利処理の過程では多くの壁がありますが、それを乗り越える私たちならではのテクニックがあります。例えば、ようやくたどり着いた権利元の中に、「どんな風に使われるのか?」と、非常に慎重になる方がいらっしゃいます。
こうした相手に対しては、どうしてこの映像が番組にとって必要なのか、時間をかけてご説明します。そのためには、何よりもまず私たち自身が、その貴重な映像を見たときにどう感じたのか、その思いを伝えることで交渉の第一歩を踏み出せる、と感じています。
まずは「番組への理解と共感を得ること」。海外とのやり取りで、どうやって番組に対しての信頼感を得ることが出来るのか、Face to Faceでのお話が難しい状況ではありますが、ネット検索をフル活用し、電話、ファクス、メール……、あらゆる手段を使ってコミュニケーションし、信頼関係を築くのです。これこそ権利処理に当たるプロとしてのテクニック、いえマインドです。

20年前に制作された1995年版「映像の世紀」においても、先輩方が同じようにたくさんの海外の権利元と信頼関係を築くことによって、貴重な映像の獲得につながったと聞いています。時にはその当時の大先輩に相談することも。そのノウハウは、引き継がれ、今なお生きています。

かつては足で回って探し求めた映像の情報も、今ではネットをはじめさまざまな媒体に情報があふれ、比較的容易に大量の情報を集めることが出来る時代になりました。
山のような映像素材にどっぷり浸かりながらも、より良い素材を求めて、調べる、探す、調べる、探す……といった畳みかけるようなリサーチをあわせて行なうことも少なくありません。また、これは! という映像を見つけても、肝心の権利者にたどり着けずに交渉が難航することもしばしばです。

このプロジェクトに携わって約2年、試行錯誤しながら権利クリアランスという大きな山に取り組んできました。
いま、制作チームとともに映像を通してリアルに「歴史」の鼓動を感じながら「映像の世紀」をつづっていく醍醐味を味わっています。
(余談ですが、お陰様で学生時代の何倍もの歴史の知識も得ることが出来ました)

番組への共感を訴えるヒューマンな部分と駆け引きのテクニックを駆使しながら、現在までに約70を超える権利元と交渉を行ない、番組へ貴重な映像素材を届けています。
いよいよ10月25日に放送される第1集についても、ようやく権利クリアランスが完了したばかりです。第6集が放送される来年の3月まで、制作スタッフと“二人三脚”の日々が続きます。

NEPライツ事業「映像の世紀プロジェクト」チーム8名(筆者は前列中央)

NEPライツ事業「映像の世紀プロジェクト」チーム8名(筆者は前列中央)

1995年版同様、「新・映像の世紀」で収集されたたくさんの貴重な映像も、かけがえのない資産となることでしょう。
「映像は 人間の罪と勇気を照らしだす。」これは、番組のキャッチコピーです。
歴史は繰り返され、そこから何を学ぶべきか。歴史を追体験する心地よい緊張感と膨大な映像から成るスケール感を、ぜひ味わってみて下さい。

番組の放送は月に1回のペースで3月まで続きます。
どうぞお楽しみに!

(ライツアーカイブスセンター ライツ事業 チーフ・プロデューサー 池上敦子)

NHKスペシャル「新・映像の世紀」

第1集「百年の悲劇はここから始まった」 10月25日(日) 午後9:00からNHK総合テレビで放送
番組ホームページ